☆フトアゴヒゲトカの性決定の不思議

フトアゴの性決定に関しては、まだまだ研究しつくされてはいないようです。


爬虫類の性決定の仕組みについては、人と同じように性染色体によって受精の瞬間に性別が決定するもの −GSDと産卵から孵化までの間の受精卵の環境温度によって性決定されるもの −TSDが知られています。 ワニ、カメ、トカゲ、ヤモリ等については、すでにその種の一部に TSDが実践的に確認されており、ヒョウモントカゲモドキなどは、ブリードの際の雌雄産分けや孵化したベビーの性別判定に利用されています。 フトアゴヒゲトカゲについても、以前の雑誌などにはブリーダーの経験則により、多くのヤモリ等と同じように、卵の保管温度が28℃を境に高いとオスが、低いとメスが多く産まれる・・・いわゆる TSDと書かれていました。


しかし、海外においては2000年頃に統計データによる孵化比率が1:1である事から、一定の温度下においては性比は1:1である…つまり、性染色体により性決定する GSDであるとほぼ結論付けられていました。

2005年には性染色体が特定され、ZZ/ZW型(ZZ:♂、ZW:♀)であることがわかりました。
この性染色体が発見確定された事により、フトアゴの性決定は性染色体による GSDということが裏付けられました。


ところが、キャンベラ大学のAlexander E. Quinnらによるサイエンス誌での報告に、卵の保管温度を20℃から37℃でそれぞれ一定になるように管理したところ、

○保温温度22℃未満では卵は孵化せず。

○保温温度23〜32℃では雌雄比がほぼ1:1(GSD

○保温温度34℃以上では、メスの比率が高まり、35〜37℃では、ほぼ100%メスが生まれた (TSD
という実験結果が示されました。


つまり、 フトアゴヒゲトカゲは、基本的な温度ではGSD、高温下では TSDという、異なる2つの性決定の仕組みを持つという事です。

フトアゴヒゲトカゲの性染色体による性決定機構はZW型と呼ばれ、通常ZZがオス、ZWがメスとなるメスヘテロ接合型(人はXXが女、XYが男となるオスヘテロ接合型−XY型)で、 性染色体の組み合わせは、メスの体内における卵の受精段階において既に決定されていますので比率は、ほぼZZ:ZW=1:1となります。


性比グラフ産卵後の卵の管理温度が常温下(23〜32℃)における実験結果データではZZがオス、ZWがメスとなりますので性比も、ほぼ1:1となります。

一方、卵の管理温度が高い(34〜37℃)環境下で生まれたフトアゴは性染色体の組み合わせがZZ、ZWに関わらず94%がメスとなり、特に35℃以上では、ほぼ100%がメス というデータとなっています。(卵の保管温度が37℃でも無事に孵化するってのも驚きですが^^;)

さらに高音管理下で産まれたメスの性染色体を調べたところ、その51%の個体の染色体はZZであったとのこと… これは染色体を調べてみたらZZとZWの比率が生死などによって変わったということではなく、遺伝的にはオスとなるはずのZZが、メスの表現を示すことがわかったということです。 つまり高温管理下においては、遺伝的にオスとなるはずのZZがメスとなるという事です。

そして、このZZ♀は、メスの生殖器及び生殖腺が確認され、抱卵もしたとの事で、形質的には完全にメスという事になるようです。


これが正しいとなると、フトアゴはGSDTSD の両方の性決定メカニズムを持ち、メスはZWとZZの2つの染色体の組合せを持つものが存在するってことになります。

性染色体の組み合わせと実際の性別が一致しない・・・それだけでもなんかとても不思議な感じです。
報告では、実際に性別を決定するのはZ染色体であり、W染色体はメスの分化のためには不必要であるとし、ZZのオスはZWのメスよりもZ因子の量が多い事から常温下ではオスになり、 高温下ではZ因子の量がオス化するためには足りないのでは(Z因子が熱に弱いのでは?)、と推論されています。
また、20℃以下での孵化が可能だった場合は、高温下と同じようにZZ♀が生まれるだろうとも推測されています。

また、報告の中に28℃で孵化した個体30頭のうち、1頭はZZ♀であった事が記載されています。これは低確率ながら常温下でもZZのメス化が起こりえるということでしょうか。

高温下においては、同じメス表現であってもZXとZZがいるという事が間違いなく、その高温下のZZがすべてメス表現になると仮定すると、そのZZ♀をオス(もちろんZZです)と掛け合わせた場合、常温下では遺伝的に100%オスしか産まれないって事ですよね^^;

全体でみると第1世代は50%がZW♀、50%がZZ♀となり、すべてメスということになります。これらのメスが成長して第2世代を生んだ場合、通常温度下ではZW♀からは50%がZZ♂、50%がZW♀が生まれ、ZZ♀からは100%ZZ♂が産まれます。

つまり第2世代全体では25%のメスと75%のオスってことになります。

イメージ図

まるで第1世代でメスが増えたものを、第2世代でオスを増やして調整してるって感じですよね^^;

自然界において異常気象など(地球温暖化^^;)で気温が上がった日が続いた場合、フトアゴ達にとって生命の危険性が上がり種の存続の危機となる。そうなると卵から孵化した子に卵を生むことのできるメスを増やすことにより、 種がより存続できる方向にシフトする。そして気温が通常に戻れば次の世代で雌雄のバランスを戻す方向に進むシステムとすれば・・・生命の神秘恐るべし!

もし、気温が上がった状態がずっと続けば…メスだらけになってしまうので、きっとまた別のシステムが働くのでしょうね^^;


○これを使って雌雄の生み分けを・・・

もし、どうしてもメスが欲しいということであれば、卵の保管温度を上げさえすればメスが生まれる確率はかなり高くなります。 ただし、生まれたメスは染色体の検査をしないと見分けがつかないZWとZZがいるということになりますし、障害が発生しやすいとも聞きますのでおすすめはしません。

もし、雌雄の産み分けってことであれば・・・ZZ♀とZZ♂を交配し通常温度で管理すれば理論上100%ZZ♂が生まれ、高温下で管理すれば高い確率でメスって事になりますが、そもそもZZ♀をどうやって見分けるんでしょうかね^^;


やはり温度による完全な雌雄の生み分けはできないと考えた方が良いのかもしれませんね。
一時期(今もかもしれませんが)、海外のフトアゴブリーダーでは色彩変異を求めて頻繁に卵を高温管理していたと聞いたことがあります。

そこで産まれたメスも当然日本に入ってきていますので、そのうち約半数はオスしか産まないフトアゴ…市場ではよくメスが少ないといわれてますが、その原因の一つはZZ♀によるものかもしれませんね^^;


TSDGSD が共存するフトアゴヒゲトゲの性決定…まだまだ奧が深いのかもしれません。


※内容には、勝手な決め付けや想像に基づく部分が多くありますのでご注意ください^^;




☆TSD
温度依存による性決定(temperature-dependent sex determination)
環境による性決定(environmental sex determination)の一つで、ワニやカメように孵卵温度が性を決定するもの。
☆GSD
性染色体にによる性決定(Genotypic sex determination)
ヒトのように性染色体によって性が決定するもの。理論上雄雌比1:1
☆参考文献
・2007 Temperature Sex Reversal Implies Sex Gene Dosage in a Reptile

(Alexander E. Quinn, Arthur Georges, Stephen D. Sarre, Fiorenzo Guarino, Tariq Ezaz, Jennifer A. Marshall Graves)

・2005 The dragon lizard Pogona vitticeps has ZZ/ZW micro-sex chromosomes

(Tariq Ezaz, Alexander E. Quinn, Ikuo Miura, Stephen D. Sarre, Arthur Georges & Jennifer A. Marshall Graves)